欧州連合商標制度の下では、欧州連合商標(EUTM)1の権利者は、EU全域に効力が及ぶ単一の登録を有します。各国の商標制度もEUTM制度と並行して運用されており(ベルギー、オランダ、ルクセンブルグについてはベネルクス登録)、各国の制度やマドリッド協定議定書による国際出願が出願人にとって最適な選択肢である場合もあります。しかしながら、EUTM制度は、EU加盟26ケ国のすべてで個別に権利化し、更新するのに比べると、はるかに経済的です。EUTM制度は、スペインのアリカンテに所在する欧州連合知的財産庁(EUIPO)2によって運営・管理されています。
誰が出願できるか?
個人または法人がEUTM出願できます。
どのように出願するか
直接EUIPOに出願しなければなりません。
EUTM出願するときは代理人は任意ですが、EUIPOにて行われるその他の手続については、欧州連合、アイスランド、リヒテンシュタインおよびノルウェーから構成される欧州経済領域(EEA)に居所を持たない出願人、商標権者、異議申立人はEEA内の商標弁理士またはEEA内いずれかの国で資格を有し業務を行う弁護士が代理人となる必要があります。
出願はE U 各国の言語ですることができます。第2 言語として、EUIPOの公用語である5つの言語(英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語)のうち1つを選択しなければなりません。第2言語は、
- 出願人がEUIPOの公用語以外で出願し、出願人から要求があ った場合、使うことができます。
- 異議申立人は使うことができます。
もし要件を満たせば、マドプロを利用してEUTM出願をすることも可能です。詳細は私共のマドプロに関するインフォメーションシートをご覧ください。本インフォメーションシートに詳記した一般原則は、マドプロ出願によるEU指定に適用されますが、審査から異議申立への手続に違いがあります。これらは別々のインフォメーションシートに説明しています。
出願の対象
商品または役務の識別ができる標識であれば登録可能です。標識には商品の形状、包装、色彩、音が含まれます。
登録性のない標識は次の通り。
- 記述的商標(ただし、EU域内の大部分での使用による識別性 を獲得した場合は除く)
- 商品の性質から生じた形状または特徴からのみなる形状
- 技術的な成果を得るために必要な形状または特徴からのみなる商標
- 商品に実質的な価値を付加する形状または特徴からのみなる商標
- 商品および役務の性質、品質または地理的出所等に関し公衆 を欺くおそれのある商標
- たとえばEUのいずれかの国において非難的または侮辱的と 思われる、公序良俗に反する商標
- パリ条約第6条の3の規定により保護される商標(国旗、国の 紋章等)
- 原産地名称保護(PDO)、地理的表示保護(PGI)および他に保護 されている表示からなるかまたはそれを含む商標
EUの24の公用語は次の通り。
ブルガリア語 | エストニア語 | アイルランド語 | ポルトガル語 |
クロアチア語 | フインランド語 | イタリア語 | ルーマニア語 |
チェコ語 | フランス語 | ラトビア語 | スロベニア語 |
デンマーク語 | ドイツ語 | リトアニア語 | スロバキア語 |
オランダ語 | ギリシャ語 | マルタ語 | スペイン語 |
英語 | ハンガリー語 | ポーランド語 | スウェーデン語 |
したがって、EUTMは単一の権利なので、これらの言語のいずれかで表記した商標が記述的あるいはその他の不登録理由に該当する場合は、拒絶の対象となります。
一出願で複数の区分を指定することができます。各区分について追加の手数料がかかります。分類はニース協定による国際分類を採用しています。
審査と調査
EUIPOは、出願商標の登録性については上述の識別性を主とした絶対的拒絶理由しか審査しません。審査官は、出願と抵触する先行するEUTMおよびEUを指定する国際登録について調査を行います。出願人は、EUTM出願時に調査結果を(無料で)受け取ることを請求することができます。先行するEUTM登録またはEUTM出願が発見された場合、商標権者・出願人に通知されます。EUTMに対して異議申立をする・しないは先行商標の商標権者・出願人次第です。
所轄官庁によっては、先行する国内商標との抵触に関して(追加手数料を支払って)調査を請求することができます。しかしながら多くの国(英国、フランス、ドイツ、イタリア等)では、審査は行っていません。万一、抵触する先行商標が発見されたときは、出願人だけに通知されます。先行する商標権者は、市場において抵触が起っていないかを監視し続けることになります。
抵触があるといえるためには、商標および商品・役務が同一または類似であることによって需要者の一部に混同が生じるおそれが高くなければなりません。信用が化体した登録商標の権利範囲はより広いといえます。
異議申立
EUIPOに直接出願された商標が、EUIPOによる絶対的拒絶理由審査を通ると、異議申立のための出願公告がなされます。
異議申立の期間は3ヶ月です。
EUを指定する国際登録については、絶対的拒絶理由による拒絶を解消する前に、異議申立手続が開始されることがあります。
異議申立人は下記の者に限られます。
- 先行の出願人または商標権者(商標はEUTMまたは国内商標 いずれも可)
- 地方に限定されない範囲で周知な未登録商標で、関連国内法 によりEUTMの使用を制限する権利を付与されている商標の所有者
- パリ条約6条の2に規定の周知商標に該当する商標の所有者
異議申立に負けた当事者は相手側の費用を負担しなければなりません。
異議申立は、絶対的拒絶理由ではなく先行する権利に基づいてのみ請求できます。たとえば商標が記述的であることあるいは不正に出願されたことを理由に請求することはできません。
もし出願がEUのいずれかの国における誰かの権利を理由に異議を申し立てられ、登録が認められなかった場合は、EUTM登録を得ることはできません。
ただし、他のEU加盟国での保護を維持したい場合、「変更」手続により(EU指定が登録できなかったマロプロ出願であれば事後指定により)、当該他のEU加盟国でそれぞれ国内登録を請求することができます。EUTM出願は国内出願に変更され、EUTM出願の出願日(優先権主張出願の場合は優先日)を維持することができます。詳細は、インフォメーションシート「EUTM-異議申立」をご覧ください。
第三者による情報提供
出願の公告後、第三者は出願に対し商標が絶対的拒絶理由を理由に登録することができないという「情報提供」をすることができます。情報提供に根拠ありと思われる場合には、審査官は拒絶理由を発行し、出願を拒絶するでしょう。出願人には「情報提供」の写しが送付され、答弁の機会が与えられます。
先行権
EU加盟国のいずれかに既に国内登録があるか、国際登録の指定があり、同一の商標に関して全EU加盟国にてEUTM登録を得ようとする場合、EUTMに対して国内登録・国際登録の出願日が記録されます。これは、該当加盟国においてEUTMの出願日より早く商標について権利を有していた証拠となります。
先行権は、EUTM出願時に、EUTM出願日から2ヶ月以内に、または登録後に主張することができます。詳細は、インフォメーションシート「EUTM - Seniority」をご覧ください。
使用
EUTMの登録権利者は、登録後5年間はEU各国において「真正に使用」する義務があります。
もし継続して5年間使用されない場合、登録は不使用取消の対象となり得ます。
しかし「真正なる使用」は、EU加盟国の1または2ヶ国だけよく、特に当該国がより大きな地域にまたがっている場合は十分であり、これにより全加盟国における保護を保持することができます。
権利の消尽
EUTM権者が侵害を訴えることのできる権利は、商標権者自身または商標権者の許諾を得た者が、EEAのいずれか一国で市場に出した商品については、「消尽」されます。
無効
EUTMは、それが絶対的拒絶理由または相対的拒絶理由を看過して登録されたことが立証された場合、無効にされます。
しかしながら、無効理由のあるEUTMが5年以上登録および使用されていることを黙認していた場合、先行権の保有者は、そのEUTMの有効性を争うことはできません。
譲渡
EUTMは単一の登録であることから、一部譲渡はできません。しかしながら、商品または役務毎の分割譲渡は可能です。譲渡を第三者に対抗できるようにするためには、EUIPOにて登録する必要があります。
使用許諾
EUTMは、EU加盟国の全部または一部において商品または役務のすべてまたは一部について使用許諾することができます。
使用権を第三者に対抗できるようにするためには、EUIPOにて登録する必要があります。
存続期間と更新
EUTMは、出願日から10年間存続し、以後、10年毎に永久に更新できます。
現在の欧州連合の加盟国
オーストリア | イタリア |
ベルギー | ラトビア |
ブルガリア | リトアニア |
クロアチア | ルクセンブルグ |
キプロス | マルタ |
チェコ | オランダ |
デンマーク | ポーランド |
エストニア | ポルトガル |
フィンランド | ルーマニア |
フランス | スロバキア |
ドイツ | スロベニア |
ギリシャ | スペイン |
ハンガリー | スウェーデン |
アイルランド | 英国 |
1 以前は欧州共同体商標(EUTM)として知られています
2 以前はOHIMとして知られています
This information is simplified and must not be taken as a definitive statement of the law or practice. Please refer to our English-language website for more information.